ゲームやなんかの好きなものについて語ります。
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また一人増えます。
最終的にセリフが少なくなっていく人がたくさんいそう。
まだまだ続きます。
―――――――――――――――--------------------------------------------------------------------------------
少し走ると焔の勢いが弱まってきた気がした。
どうやら火元は来た方向らしく、こちらはまだマシなようだった。
それでも比較の問題でしかないので時間をかけられないことに変わりはない。
「まったく…どこに行っちゃったんだ」
「こんなとこ勢いで突っ込んで行くなんてちょっとあほ」
「会ってもない相手の事そんな風に言うんじゃありません」
窘めたものの、見付けたらマキアスの方も少し叱らないといけないな、と思って苦笑する。
ついさっきだって剣を提げた兵士に食ってかかっていたのだ。
もう少し自分の身を顧みてもらわないと困る。
「誰かいる」
「えっ」
フィーの視線を追うと確かに前方に人影が見えた。
二人いて、片方は座り込んで、もう片方は立っているようだった。
立っている方は何かを座り込んでいる方へ向けて構えている。
「――――!マキアス!」
銃を構えた兵士が尻餅をついた状態のマキアスに銃口を向けている。
そう認識した瞬間にリィンは足を踏み出して腰に手をやり…空を掴んだ。
「ってそうだった!今日に限って置いて来てる!?」
出足を挫かれたリィンの代わりにフィーが飛び出した。
短刀を構えると同時に鋭い銃声が響き、兵士の銃口を弾いた。
(できるかわからないけどやるしかない…っ!)
リィンはそれを追うように距離を詰め、兵士の懐に飛び込む。
そのまま銃身を腕でいなして鋭い突きを兵士の胴に叩き込んだ。
「ぐっ…」
(浅いか?!)
兵士は体勢を乱したが意識までは奪えなかったようだ。
瞬間迷ったが、気配を察して咄嗟に一歩下がる。
その間にフィーが飛び込んで来て、短刀の柄で兵士の顎を打った。
「あがっ!?」
その衝撃に耐えられずに兵士はそのまま仰向けに倒れてしまった。
フィーは構えを解かずにしばらく様子を見ていたが、動かないのを確認して落ちていた兵士の銃を炎の中へ放った。
「…おけ」
「助かった。すごいな、俺よりもずっといい動きだった」
「…リィンもなかなか」
フィーは少し照れくさそうにしながらもVサインをしてみせる。
それに笑みを返しながらリィンは内心息をついた。
無手の型。
太刀が奪われたり落とされたりした時の型として稽古はしていたが、実戦で使うのは初めてだった。
(なんとかなってよかった…。フィーがいなかったら危なかったが)
安堵の息をついてからへたり込んだまま呆然としているマキアスを振り返る。
「大丈夫か?怪我は?」
「あ、あぁ……てtなんで子供がここにいる!?そもそも君は誰だ!いやどこかで会ったか…いや気のせいか?
一体何がどうなってなんで兵士が僕を」
「…うるさいー」
耳を塞いでみせるフィーに苦笑しながらリィンはマキアスに手を差し伸べた。
「とりあえずマキアスは落ち着こう。今は説明してる暇はない。早くここから出よう」
リィンはマキアスを助け起こすと次は倒れた兵士の腕を担ぎ上げた。
銃を向けられたとはいえ、ここに置いて行っては火に呑まれてしまう。
「し、しかし」
「…ここには民間人はいない。こんなのが襲ってくるだけ」
フィーはマキアスの意を察したのかリィンが肩を貸している兵士を指差してみせた。
「~~~っ、わからないがわかった!ここから出たら色々説明してもらうぞ!」
言ってマキアスはリィンと反対側の兵士の腕を肩に担いだ。
リィンはフィーと頷き合うと出口を目指して歩き出した。
「はぁぁぁぁ~~~っ…」
とりあえず安全そうなところに兵士を放って三人は火事現場から少し離れたところでようやく息をついた。
「死ぬかと思ったよ…。マキアス、気持ちはわかるけど勢いで飛び込んで行くのはやめてくれ。
命がいくつあっても足りないぞ」
「う、す、すまない…」
さすがに申し訳なさそうにマキアスは頭を下げた。
すまなさそうな顔をしているが髪の毛はあちこち焦げているし、眼鏡は煤でまだらになっているし、顔もまっ黒でなんだか笑えてしまった。
「リィン、笑ってるが君だって同じような有様だぞ」
「はは、そうだろうな。でもよかった、誰も怪我がなくて。フィーのおかげだ…」
言いながら視線をやるとフィーがちょうど地面を蹴ったところだった。
「あ!」
重力を感じさせない身軽さで傍に積んであったコンテナの上に飛び乗る。
最初に会った時のようにリィン達を見下ろしながらフィーは首を振った。
「もうこんなとこに飛び込んできちゃだめ。巻き込まれたくなければジュライを出て」
「フィー!」
「こ、こら待て!まだ何も説明してもらってないぞ!」
「…説明するとはいってない」
「なんだとー!」
マキアスの怒りの声を無視してフィーはそのままコンテナの向こうへ消えてしまった。
あの勢いで逃げられたらリィン達ではとても追いつけないだろう。
去り際少し微笑んだように見えたせいか、クロウに去られた時のような呆然とした感覚はなかった。
「しかしなんだって、あの兵士は何も言わずに民間人に銃を向けてきたんだ」
マキアスの言葉にフィーが去った方向を見つめていた視線を彼へと向ける。
「誰何もされなかったのか?」
「むしろ人影が見えたからこちらから声をかけたんだ。兵士だったから手伝えることがあるか聞いたら無言で銃を向けられた。なんだか様子がまともじゃなかった気がするが…」
「……」
兵士からは殺気が立ち上っていた。
恐らくリィン達が来なければマキアスは撃たれていたろう。
ジュライの兵士が独立派と反対派で争っていても、ジュライ自身がエレボニアと争っていても、民間人を問答無用で殺傷する理由にはならないはずだ。
加えてフィーの存在。
『知らない記憶』のせいで違和感はないが、見た目から推測できる年齢にしては高すぎる戦闘技術は一つの職業を連想させる。
だかもしそれが街中を横行闊歩しているなら本当に事態は差し迫っている。
そこまで考えてリィンは頭を振った。
情報は少なすぎる。今は何を考えても無駄だろう。
「とにかくマキアス、ここを離れよう。見つかったら面倒なことになりそうだ」
「あ、あぁそうだな。というかシャワーを浴びたい気分だ…」
「それは同感だ。でもマキアスは自業自得だぞ」
「う、わかってる…」
※
ホテルに戻るというマキアスと分かれたリィンは自分もホテルに戻るべく商業地区を歩いていた。
マキアスは疲れ切っていたようだし、とりあえず今日は無茶はしないだろう。
本当はブラウン・シュガーを訪ねるつもりだったがそれにしたって一旦シャワーを浴びて着替えないと何事かと思われるだろう。
(まったく…来て二日目でこんな目に遭うなんてな)
とはいえ、マキアスやフィーと会えたことはとても喜ばしいことに思えた。
心配事も多いが、不思議と不安はあまり感じなかった。
感じているとすれば…
「おい、そこの!止まれ!」
「え?」
考え事をしながら歩いていると急に兵士に前に立ちはだかられて危うくぶつかるところだった。
やはり国章をしていない、議会の私兵のようだった。
(なんだ…?太刀も持っていないし不審なことをしているつもりはなかったんだが)
警戒しながら前に立つ二人の兵士を観察する。
声をかけた方が上官のようで、もう一人は付き従うように剣に手を当てたまま少し下がって立っている。
炎の中で出会った兵士と違って問答無用で襲い掛かってくる気はないようだった。
「貴様…その煤だらけの姿、まさか先ほどの火事現場にいたのか?」
(!そうか、しまった…!)
自分で自分は見えないから失念していたが、恐らく今のリィンの姿は街中を歩くには浮いているだろう。
やましいところは何もないが、襲われたとはいえ兵士を一人倒しているし、逆に怪しくないという証明もできない。
「い、いやこれはその」
「怪しい奴…詰所まで来てもらおうか。抵抗すれば容赦はせんぞ」
(くっ…!)
ユミルに問い合わせてもらえば身元は証明できるだろうし、火事とは本当になんの関係もないのだから説明すればいいはずだ。
だが先ほどの兵士の不自然な様子が気になっていた。
増して今ジュライを追いだされでもしたらとても困る。
(どうすれば…!)
一か八か逃げるか、そう思った瞬間背後からぐっと肩を掴まれた。
「んなっ?!」
「このやろう、いねぇと思ったらこんなとこにいやがったか」
「くっ、くくく」
肩を組むようにして後ろからのしかかってきたのはクロウだった。
『口合わせろ』
早口で囁かれてリィンは咄嗟に口を噤んだ。
兵士二人は突然の闖入者に不審そうな顔をしている。
「まったく鍛冶師にそんなに長い昼休みはねぇんだよ。ましてやお前みたいなひよっこにはな。おら、とっとと親方んとこ戻るぞ…おっと」
そこで初めて兵士たちに気付いたようにクロウは視線を呆然としている二人に向けた。
「すんません、こいつがなんかしちまいましたかね?ほんと鈍くさいんでこいつ、迷惑かけたならすんません。
この通り、謝らせますんで」
クロウはぐっとリィンの頭を押して下げさせる。
どうも鈍くさい見習いという設定のようなので、とりあえずへらへら笑ってすみません、と呟いてみた。
「む…鍛冶師か。それでその姿か…。むう、仕方ない。今は大変な時世だ。あまり妙な格好でふらふらするな」
「いやーその通りで。親方にもいつも外に出るなら綺麗にしてから行けって言われてんのにこいつは」
「いてっ」
頭を小突かれて、演技ではなく声が出る。
さすがに恨めしそうに横目で睨むとどこか悪戯っぽい笑みが返ってきた。
「我らも忙しいのだ。とっとと仕事に戻れ」
「ありがとうございますっ。おらいくぞ」
「あ、ありがとうございまーす…」
なかば引きつった笑顔を浮かべながらリィンはそそくさとクロウを追ってその場を後にした。
しばらく背後の気配を窺っていたが、兵士たちの注意はすぐにリィンから逸れたようだった。
(……ふぅ)
内心で息をついて、今度は少し先を行くクロウの背中に意識を向ける。
クロウは黙ったまま同じ歩調で前を歩き続ける。
リィンも黙々とその後を追って同じ歩調で歩き続ける。
そのまましばらくひたすら進んでいたが、突然クロウの脚にぐっと力がこもった。
それを確認すると同時にリィンはクロウの背中にしがみついた。
「に~が~す~か~」
「ちっ、バレたか」
「バレるに決まってるだろ!助けたならちゃんと最後まで面倒見てくれ!」
「知るかオレは忠告したろーが!あぁもうわかった、逃げねぇから離せ!」
「信用できない」
「しろっての!てか無駄に注目浴びてんだよ!」
「え」
落ち着いて辺りを見回すと少なくない数の視線がこちらをちらちらと窺っている。
考えてみたら往来の真ん中で男にしがみついている男はちょっとどころではなく目立つ。
リィンは自分の状況に気付いて赤面しながらも渋々クロウから離れた。
「…ったく…。とにかくここじゃ話もできねぇ。ついてこい」
「あ、あぁ」
どうやら本当に逃げずにいてくれるようなので、リィンは今度はクロウの横に並んで歩き出した。
呆れ混じりの横顔を窺う。
彼の隣を歩いている。
そう思うだけでどうしようもなく喜ばしくて、同時にどうにもならないくらいに悲しい。
いつか奪われるものを得てしまったような、そんな切なさを振り払うようにリィンは唇を噛み締めた。
最終的にセリフが少なくなっていく人がたくさんいそう。
まだまだ続きます。
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少し走ると焔の勢いが弱まってきた気がした。
どうやら火元は来た方向らしく、こちらはまだマシなようだった。
それでも比較の問題でしかないので時間をかけられないことに変わりはない。
「まったく…どこに行っちゃったんだ」
「こんなとこ勢いで突っ込んで行くなんてちょっとあほ」
「会ってもない相手の事そんな風に言うんじゃありません」
窘めたものの、見付けたらマキアスの方も少し叱らないといけないな、と思って苦笑する。
ついさっきだって剣を提げた兵士に食ってかかっていたのだ。
もう少し自分の身を顧みてもらわないと困る。
「誰かいる」
「えっ」
フィーの視線を追うと確かに前方に人影が見えた。
二人いて、片方は座り込んで、もう片方は立っているようだった。
立っている方は何かを座り込んでいる方へ向けて構えている。
「――――!マキアス!」
銃を構えた兵士が尻餅をついた状態のマキアスに銃口を向けている。
そう認識した瞬間にリィンは足を踏み出して腰に手をやり…空を掴んだ。
「ってそうだった!今日に限って置いて来てる!?」
出足を挫かれたリィンの代わりにフィーが飛び出した。
短刀を構えると同時に鋭い銃声が響き、兵士の銃口を弾いた。
(できるかわからないけどやるしかない…っ!)
リィンはそれを追うように距離を詰め、兵士の懐に飛び込む。
そのまま銃身を腕でいなして鋭い突きを兵士の胴に叩き込んだ。
「ぐっ…」
(浅いか?!)
兵士は体勢を乱したが意識までは奪えなかったようだ。
瞬間迷ったが、気配を察して咄嗟に一歩下がる。
その間にフィーが飛び込んで来て、短刀の柄で兵士の顎を打った。
「あがっ!?」
その衝撃に耐えられずに兵士はそのまま仰向けに倒れてしまった。
フィーは構えを解かずにしばらく様子を見ていたが、動かないのを確認して落ちていた兵士の銃を炎の中へ放った。
「…おけ」
「助かった。すごいな、俺よりもずっといい動きだった」
「…リィンもなかなか」
フィーは少し照れくさそうにしながらもVサインをしてみせる。
それに笑みを返しながらリィンは内心息をついた。
無手の型。
太刀が奪われたり落とされたりした時の型として稽古はしていたが、実戦で使うのは初めてだった。
(なんとかなってよかった…。フィーがいなかったら危なかったが)
安堵の息をついてからへたり込んだまま呆然としているマキアスを振り返る。
「大丈夫か?怪我は?」
「あ、あぁ……てtなんで子供がここにいる!?そもそも君は誰だ!いやどこかで会ったか…いや気のせいか?
一体何がどうなってなんで兵士が僕を」
「…うるさいー」
耳を塞いでみせるフィーに苦笑しながらリィンはマキアスに手を差し伸べた。
「とりあえずマキアスは落ち着こう。今は説明してる暇はない。早くここから出よう」
リィンはマキアスを助け起こすと次は倒れた兵士の腕を担ぎ上げた。
銃を向けられたとはいえ、ここに置いて行っては火に呑まれてしまう。
「し、しかし」
「…ここには民間人はいない。こんなのが襲ってくるだけ」
フィーはマキアスの意を察したのかリィンが肩を貸している兵士を指差してみせた。
「~~~っ、わからないがわかった!ここから出たら色々説明してもらうぞ!」
言ってマキアスはリィンと反対側の兵士の腕を肩に担いだ。
リィンはフィーと頷き合うと出口を目指して歩き出した。
「はぁぁぁぁ~~~っ…」
とりあえず安全そうなところに兵士を放って三人は火事現場から少し離れたところでようやく息をついた。
「死ぬかと思ったよ…。マキアス、気持ちはわかるけど勢いで飛び込んで行くのはやめてくれ。
命がいくつあっても足りないぞ」
「う、す、すまない…」
さすがに申し訳なさそうにマキアスは頭を下げた。
すまなさそうな顔をしているが髪の毛はあちこち焦げているし、眼鏡は煤でまだらになっているし、顔もまっ黒でなんだか笑えてしまった。
「リィン、笑ってるが君だって同じような有様だぞ」
「はは、そうだろうな。でもよかった、誰も怪我がなくて。フィーのおかげだ…」
言いながら視線をやるとフィーがちょうど地面を蹴ったところだった。
「あ!」
重力を感じさせない身軽さで傍に積んであったコンテナの上に飛び乗る。
最初に会った時のようにリィン達を見下ろしながらフィーは首を振った。
「もうこんなとこに飛び込んできちゃだめ。巻き込まれたくなければジュライを出て」
「フィー!」
「こ、こら待て!まだ何も説明してもらってないぞ!」
「…説明するとはいってない」
「なんだとー!」
マキアスの怒りの声を無視してフィーはそのままコンテナの向こうへ消えてしまった。
あの勢いで逃げられたらリィン達ではとても追いつけないだろう。
去り際少し微笑んだように見えたせいか、クロウに去られた時のような呆然とした感覚はなかった。
「しかしなんだって、あの兵士は何も言わずに民間人に銃を向けてきたんだ」
マキアスの言葉にフィーが去った方向を見つめていた視線を彼へと向ける。
「誰何もされなかったのか?」
「むしろ人影が見えたからこちらから声をかけたんだ。兵士だったから手伝えることがあるか聞いたら無言で銃を向けられた。なんだか様子がまともじゃなかった気がするが…」
「……」
兵士からは殺気が立ち上っていた。
恐らくリィン達が来なければマキアスは撃たれていたろう。
ジュライの兵士が独立派と反対派で争っていても、ジュライ自身がエレボニアと争っていても、民間人を問答無用で殺傷する理由にはならないはずだ。
加えてフィーの存在。
『知らない記憶』のせいで違和感はないが、見た目から推測できる年齢にしては高すぎる戦闘技術は一つの職業を連想させる。
だかもしそれが街中を横行闊歩しているなら本当に事態は差し迫っている。
そこまで考えてリィンは頭を振った。
情報は少なすぎる。今は何を考えても無駄だろう。
「とにかくマキアス、ここを離れよう。見つかったら面倒なことになりそうだ」
「あ、あぁそうだな。というかシャワーを浴びたい気分だ…」
「それは同感だ。でもマキアスは自業自得だぞ」
「う、わかってる…」
※
ホテルに戻るというマキアスと分かれたリィンは自分もホテルに戻るべく商業地区を歩いていた。
マキアスは疲れ切っていたようだし、とりあえず今日は無茶はしないだろう。
本当はブラウン・シュガーを訪ねるつもりだったがそれにしたって一旦シャワーを浴びて着替えないと何事かと思われるだろう。
(まったく…来て二日目でこんな目に遭うなんてな)
とはいえ、マキアスやフィーと会えたことはとても喜ばしいことに思えた。
心配事も多いが、不思議と不安はあまり感じなかった。
感じているとすれば…
「おい、そこの!止まれ!」
「え?」
考え事をしながら歩いていると急に兵士に前に立ちはだかられて危うくぶつかるところだった。
やはり国章をしていない、議会の私兵のようだった。
(なんだ…?太刀も持っていないし不審なことをしているつもりはなかったんだが)
警戒しながら前に立つ二人の兵士を観察する。
声をかけた方が上官のようで、もう一人は付き従うように剣に手を当てたまま少し下がって立っている。
炎の中で出会った兵士と違って問答無用で襲い掛かってくる気はないようだった。
「貴様…その煤だらけの姿、まさか先ほどの火事現場にいたのか?」
(!そうか、しまった…!)
自分で自分は見えないから失念していたが、恐らく今のリィンの姿は街中を歩くには浮いているだろう。
やましいところは何もないが、襲われたとはいえ兵士を一人倒しているし、逆に怪しくないという証明もできない。
「い、いやこれはその」
「怪しい奴…詰所まで来てもらおうか。抵抗すれば容赦はせんぞ」
(くっ…!)
ユミルに問い合わせてもらえば身元は証明できるだろうし、火事とは本当になんの関係もないのだから説明すればいいはずだ。
だが先ほどの兵士の不自然な様子が気になっていた。
増して今ジュライを追いだされでもしたらとても困る。
(どうすれば…!)
一か八か逃げるか、そう思った瞬間背後からぐっと肩を掴まれた。
「んなっ?!」
「このやろう、いねぇと思ったらこんなとこにいやがったか」
「くっ、くくく」
肩を組むようにして後ろからのしかかってきたのはクロウだった。
『口合わせろ』
早口で囁かれてリィンは咄嗟に口を噤んだ。
兵士二人は突然の闖入者に不審そうな顔をしている。
「まったく鍛冶師にそんなに長い昼休みはねぇんだよ。ましてやお前みたいなひよっこにはな。おら、とっとと親方んとこ戻るぞ…おっと」
そこで初めて兵士たちに気付いたようにクロウは視線を呆然としている二人に向けた。
「すんません、こいつがなんかしちまいましたかね?ほんと鈍くさいんでこいつ、迷惑かけたならすんません。
この通り、謝らせますんで」
クロウはぐっとリィンの頭を押して下げさせる。
どうも鈍くさい見習いという設定のようなので、とりあえずへらへら笑ってすみません、と呟いてみた。
「む…鍛冶師か。それでその姿か…。むう、仕方ない。今は大変な時世だ。あまり妙な格好でふらふらするな」
「いやーその通りで。親方にもいつも外に出るなら綺麗にしてから行けって言われてんのにこいつは」
「いてっ」
頭を小突かれて、演技ではなく声が出る。
さすがに恨めしそうに横目で睨むとどこか悪戯っぽい笑みが返ってきた。
「我らも忙しいのだ。とっとと仕事に戻れ」
「ありがとうございますっ。おらいくぞ」
「あ、ありがとうございまーす…」
なかば引きつった笑顔を浮かべながらリィンはそそくさとクロウを追ってその場を後にした。
しばらく背後の気配を窺っていたが、兵士たちの注意はすぐにリィンから逸れたようだった。
(……ふぅ)
内心で息をついて、今度は少し先を行くクロウの背中に意識を向ける。
クロウは黙ったまま同じ歩調で前を歩き続ける。
リィンも黙々とその後を追って同じ歩調で歩き続ける。
そのまましばらくひたすら進んでいたが、突然クロウの脚にぐっと力がこもった。
それを確認すると同時にリィンはクロウの背中にしがみついた。
「に~が~す~か~」
「ちっ、バレたか」
「バレるに決まってるだろ!助けたならちゃんと最後まで面倒見てくれ!」
「知るかオレは忠告したろーが!あぁもうわかった、逃げねぇから離せ!」
「信用できない」
「しろっての!てか無駄に注目浴びてんだよ!」
「え」
落ち着いて辺りを見回すと少なくない数の視線がこちらをちらちらと窺っている。
考えてみたら往来の真ん中で男にしがみついている男はちょっとどころではなく目立つ。
リィンは自分の状況に気付いて赤面しながらも渋々クロウから離れた。
「…ったく…。とにかくここじゃ話もできねぇ。ついてこい」
「あ、あぁ」
どうやら本当に逃げずにいてくれるようなので、リィンは今度はクロウの横に並んで歩き出した。
呆れ混じりの横顔を窺う。
彼の隣を歩いている。
そう思うだけでどうしようもなく喜ばしくて、同時にどうにもならないくらいに悲しい。
いつか奪われるものを得てしまったような、そんな切なさを振り払うようにリィンは唇を噛み締めた。
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