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ゲームやなんかの好きなものについて語ります。
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空は紫紺。
地上は色が咲き乱れ・・・無数の人に満たされている。
やがて、紺色の空にも色とりどりの華が咲き始める。

ただ立っていても汗が流れてくる、夏の夜の花火大会。
その会場の端、土手の上に2人は立っていた。
少女は朝顔の浴衣。
空と同じ紺青の色をして、空に重ねると消えてしまいそうだった。
少年はシャツにジーンズ。
散歩に出るような気軽さが、少女にはおかしかった。
どぉん、と晴れやかな音。
空に大きく、小さく火の花が咲く。
「キレイ」
「まぁな」
「なんであんたが偉そうなの」
「なんとなく」
ぽつりと言葉を交わす。
歓声が響いて、それでも浮き上がったようにお互いの声だけが近かった。
「人、多いね」
「お前もその一部だろ」
「・・・そうだけど。あんたもね」
「まぁな」
また途切れる。
空に小さくたくさんの花火。
その全てが違う色をしていた。
「何か話せよ」
「花火見てるの」
「俺もだよ」
「じゃあいいじゃない」
黙って、空を見上げた。
一つ、大きな華が広がる。
星の輝きも、月さえもかき消して。
「去年も、ここ来たよね」
「一昨年もな」
「同じ花火なのかな」
「んなの覚えてねぇよ」
「私も」
さぁっと降り注ぐような花火。
眩く光が顔を照らした。
「今年で・・・最後だね」
「そうだな」
「もう・・・一緒に見れないね」
「かもな」
「かもじゃなくてさ・・・」
少女は小さく笑った。
ちらり、と少年を見やると少年はただひたすら意固地になったように花火を見上げていた。
「・・・意外」
「何が」
「泣かないんだね」
「悲しくねぇもん」
少女が視線を空に戻すと、今度は少年が少女を見た。
「お前も、泣いてないな」
「悲しくないもの」
ふぅん、と小さく呟いて少年も空を見た。
最後に向けて小さく、大きく花を咲かせる。
遠く空に打ちあがるのに、迫るように大きな花火。
赤に緑に青に、小さく空を彩る花火。
キレイなのに、どれも胸をかすめて消えていった。
「ね、手繋いでよ」
「やだよ」
「なんでよ、いいでしょそれくらい」
「無理だよ、できねぇよ」
少女は無理に手を伸ばす。
それを眉をひそめて少年がよける。
「やめろって・・・」
けれど、迷った手は毅然とした少女の手に追いつかれて2人の手が重なる。
・・・いや、重なりかけて透けてすれ違った。
「ほら・・・無理だって・・・」
俯く少年の手に、形だけでも添えるように少女は手を伸ばした。
一際、大きく華が咲く。
「何、泣いてるのよ」
「悲しいからだよ」
少年は涙に濡れた顔を上げた。
「お前も、泣いてんじゃねぇかよ」
「悲しいもの」
薄れて、向こうの景色が透けて見える顔で少女が笑った。
ぼろぼろ涙を零しながら笑った。
だから少年も笑った。
「じゃあな」
「うん、元気でね」
「おう・・・またな」
「・・・・・・うん、またね」
空に打ちあがる花火と同じ。
ひゅるる、と音がして、少女の体が霧に、靄に消えていく。
最後に大きく上がった花火と同じ。
夜空で満開の笑みを咲かせて、少女は消えた。
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